お侍様 小劇場
 extra 〜寵猫抄より

    “マシュマロまふまふvv”


マシュマロは過熱するとゼラチンが溶け出して
あのふわふわな独特の質感が、
カリカリになったりモチモチになったりするそうで。
食パンに並べて乗っけてオーブントースターで焼き、
缶詰のカットフルートをちりばめると、
ホットタイプの
フルーツオープンサンド(甘口)になるんだとか。

 「………。」
 「……あ、勘兵衛様には和食を用意してありますんで。」

ニュースでこそ、
あちこちからの桜の便りも聞かれ出していて。
当家のキッチンのカレンダーも
チューリップの赤も鮮やかな、
新しい月の華やかな頁へ変わったものの。
まだまだコタツは仕舞えない、
微妙な寒さの居残る、卯月の初め。
執筆明けの朝にしちゃあ、
8時台という早い目のお目覚め、
リビングまでお顔を出した勘兵衛が。
そこで展開されてた情景へ
ややもすると言葉もないお顔になったのへと苦笑をし。
ご安心をとキッチンの方へ去ってった七郎次。
庭を向いた大きな掃き出し窓から降りそそぐ
朝の光のカーテンの少し向こう。
炊飯器の蓋を開け立てする物音が立ってから、
ほんの一呼吸ほどだけの間をおいての
すぐにもとって返して来た手際の善さよ。
勘兵衛が指定席へ落ち着いたコタツの上へ
ささどうぞと、盆から移されたのは、
窓からの朝の明るさに、湯気までつやつや光って見える、
炊きたてらしい白米に、
こちらも香りのいい、三ツ葉と焼き麩のみそ汁。
中塩の鮭はふくよかに焼かれ、
アサリの佃煮は新物で、甘辛の照りもやわらかそう。
鉢ものは菜の花の煮びたしが春の趣きを覗かせるという、
こちらも結構な手を尽くした膳ではあったが、

 「変わったものを食べさせておるのだな。」

そんなおこたの傍のラグの上、
そちらもぬくぬくの陽だまりの中にて
繰り広げられていた“朝食”の方は…といやあ。
さすがに1枚まんまは大きすぎるということか、
食パンの耳の間近を3cmほどに縦に切り、
そこへマシュマロを乗せの、カリカリに焼きのし、
ちょみっとジャムや生クリームを塗りのした代物を。
前足で上手に挟み込んで立てると、
右から左から、小さなお顔を回り込ませては。
あぐあぐあぎあぎ、
小さな仔猫さんたちが頑張って攻略中。

 「頂き物のパンが残ってたんですよね。」

仔猫さんたちもどちらかといや、
勘兵衛と同様に和食派・ご飯派なので、
七郎次一人で食べるには多い目に頂いたパンが
微妙に古くなって来たがため、

 「冷凍して保存してもよかったんですが、
  美味しい食べ方がありますよと
  テレビで紹介されてたんで試してみたんですよね。」

クッキングシートに乗せてレンジでチンしたら、
甘い甘いせんべえになるっていうのは知ってましたが、と。
彼もまたどちらかと言えば甘党な七郎次が、
マシュマロトーストと格闘中の
無邪気な和子らの“朝ごはん”の風景に、
すっかりと目尻を下げて見入っておいで。

 “まま、それは いつものことであるのだが。”(苦笑)

朝からカリカリだ、甘いね美味しいねと、
スナック菓子のような感覚で
小さなお口で一心不乱の懸命に、
かじりついておいでの久蔵とクロちゃんで。
総身からして小さいからと、
最初から半分に折ってもらっていたクロちゃんはともかく。
長いまんまを真ん中から かぷついたらしい
キャラメル色のメインクーンさんは、
途中でかさりと折れたのが
真ん丸な頭へ倒れかかったもんだから、

 「にゃっ?」

痛くはなかっただろうが、
本人には何の前触れもなかったことだけに。
不意打ちだったの警戒したか、
何だ何だ?と 一丁前にも
真面目なお顔で素早く左右を見回すところが
傍から見ていた側には可笑しいたらなくて。

 「ほら、何でもありませんてば。」

周囲のパンくずは
後でラグごとまとめてポーチへ持ってゆき、
床も掃除機で片づける所存だったおっ母様も。
大丈夫ですよとのお声掛けを兼ねて、
落ちたすぐの間際にお膝をつくと、
とりあえずはと、床へおっこちた欠片を小皿へ拾い上げ、
金のふわふかな髪からも粉粉のくずを払ってやれば。
暖かい気配が間近になったのへ、
何だ何でもなかったかと やっとのこと安堵したものか。

 「みゃ〜んvv」

甘くて美味しいのvvと
目許たわませ、
それは満足そうな笑顔を
振り向けてくださった坊やだったので、

 「〜〜〜〜〜〜vvvv////////」

あああ、しまったこんな至近距離でと、
相変わらず いちいちたじろいでいては世話はない。
にゃは〜vvと微笑ったお口の八重歯も神々しい、
小さな金髪の天使様…に見えている家人らではあるが、

 “なんの、夜陰に翔っては邪妖を刻む姿は、
  月の冴えたる光に映えて、何とも凛々しいのだがな。”

実はもっとお兄さんの姿をした大妖狩りの久蔵であること、
こそりと自分だけが知っておいでの御主様としては。
そこからのギャップが大きいことも含めて、
無邪気な母子の様子へ苦笑が絶えないのであり。
持ち重りのしそうな大きな手を緩く握った、
それは頼もしそうな拳の陰で小さく苦笑をしておれば、

 「………あ、すみません。////////」

さすがに気がついたか ハッとした七郎次が、
お新香もありますよ持って来ますね、と。
我に返ったのと同時、
気恥ずかしさから居たたまれなくなるものか、
仕切り直しもかねてのこと、
あわわとその場から逃げ出す彼なのも相変わらずで。
お口の回りについた甘い糖蜜を
小さな舌出しぺろぺろと舐める仕草も愛らしい。
だがだが、そっちも実は大きな図体の大人猫、
いやさ、齢ン百年という式神のクロちゃんが、
ふとこちらを見やったのと視線が合って。

 「  なぁ〜んvv」
 「………う"。」

可愛い子ぶりこも すっかりと板につきおってと、
そちらへはさすがに、
かくりと体が斜めになった壮年だったが。
なんの、ほのぼのするは春に相応しと、
知らず込み上げる苦笑に、口許再びほころばせる、
顎髭も男臭い その風貌には似合わぬ、
実は風流人の物書きせんせえだったりし。


  時々意地の悪い北風も舞い戻るけど、
  町なかの桜も ちらほら咲いていて、
  お花見日和になるのも もう間近。
  新しい季節さん、
  こちら ちょっと変わり者の仔猫らですが、
  悪戯な尻尾の先まで、どうかよろしくお願いしますね?






   〜Fine〜  2012.04.06.


  *女子高生にかかりきりの三月だったもんだから、
   直前のお話が丸まる1カ月前という
   猫叉噺です。(ちょっと待て、そんな副題だったか?)

   はなまるマーケットで紹介されていた
   食パンアレンジから、
   甘党には垂涎だったろうレシピをvv
   ……と言いつつ、実はもーりんも、
   海苔と醤油といいお塩、
   それからお新香があれば満足の、
   根っからの“ごはん党”なのであったvv(こら)

ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る